【作り手の本質】「池の水を抜いたり」「モヤモヤさせたり」この手があったか!—テレビ東京を牽引する伊藤Pが考えるテレビの未来とは?(シリーズ連載)
想定外を生み出す放送の未来を第一線で活躍するテレビマンが考える未来のテレビとは?「モヤモヤさまぁ〜ず2」「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」などのバラエティ番組でおなじみのテレビ東京の伊藤隆行さんに執筆していただきました。
「出たっ!ブラックバス!何でも食っちゃう」「お!ブルーギル!繁殖力がスゴイ」――「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」のロケの日、ある小学生に出会った。思わず「君、スゴイね」と声をかけた。「この番組ぜんぶ見てるよ。ミシシッピアカミミガメは誰かが捨てたんだよ」。彼はきっと外来種博士と呼ばれているに違いない。
はじまりは池の水をぜんぶ抜いたら面白そうだけだった。
それだけのことなのに、この番組を育んだのは数々の想定外だった。
2016年12月、最初のロケ。都会のど真ん中に巨大なスッポンが出現。何だコレ !?「喜ばしいことです!守り神です」。専門家が言った。日本の固有種スッポン。外来種の脅威から生態系を守っているのだという。縁日で売られているミドリガメは全国に800万匹と大量発生し、環境省が緊急対策に乗り出した。未知との遭遇のオンパレード。
最近トンボ減ったな……日本の生態系、大丈夫なのかな?なんてことを考え始めた。水を抜くプロ集団にも初めて会った。巨大なポンプもぶっといパイプも初めて見た。スイッチオンで水抜き開始!何だこのワクワク感……「うわっ!水が無ぇぞ!」気づけば1000人以上の住民が集結。「ウチの池の水も抜いてください」とホームページには応募が殺到し、その数600件。住職や市長の名前まである。これは緊急SOSだ。
“想定外”を生み出せ
「一気に伝わっちゃったんです!私たちの危機感も」。外来種問題を研究する静岡大学の加藤英明先生はテレビの影響力に驚いた。環境大臣や都知事も自ら出演し、日本の生態系を守ろうと訴えた。18年正月特番の視聴率は13・5%で全局1位(関東地区)。現在は月1回のレギュラー番組となり、スタッフは毎週のように泥まみれになっている。
完全に想定外だった。池の水を抜いたら日本の社会課題が出てきたのだ。池は汚いままでいいのか?生態系は放置していいのか?――視聴者は考えた。
そして私はあの少年に出会った。日本の将来を担う小さな外来種博士
に。私にとっては彼こそが想定外。番組は多くの人々に影響し、会話を発生させ、数え切れない人を集めた。
「テレビ」とは何か?
それは人々の文化度の高まりに貢献すること。「面白い」も「タメになる」も「くだらない」も必要とされること。
デバイスフリー、タイムフリー、ロケーションフリーの時代、いつでもどこでも「見たい」が叶う時代だから、日本のエンターテインメントの王道を叫びたい。世の中の話題の中心を発するテレビは、トレンドを強く生み出す装置。テレビマンは勇気をもって「面白い」を放つべきだ。想定内に溺れたら「見たい」は創れない。挑戦をやめたら想定外は生まれないのだから。
(伊藤隆行 テレビ東京・制作局チーフプロデューサー)
初出:民放連機関紙「民間放送」6月23日号(一部加筆及び修正)
*UNPORTALISMでは今後も「民間放送」のコンテンツを掲載していく予定です。