NEWS

ニュース

  1. HOME
  2. ブログ
  3. ニュース
  4. 文章を書くプロとアマチュアの違い/真野愛子

文章を書くプロとアマチュアの違い/真野愛子

放送作家&ライター集団リーゼント

大学生の頃、アルバイト先の出版社で編集者の女性から「ライターの仕事をしないか?」と誘われた。
私は中学生の英語教材の編集を手伝っていたが、その女性は「月刊誌の編集部でライターが足りないから」と私を推薦してくれるというのだ。
なんで私が? と素直に疑問を口にしたら、「あなた、体力ありそうじゃない」とよくわからない理由で適役だと太鼓判を押された。
 
すぐに月刊誌のヒゲの編集長と面接することになり、正直に「私は大学生で編集アシスタントはしてますが、とくに文章を書いてるわけでもありません。今まで記事とかも書いたことありませんけど、とりあえず話だけ聞きに来ました」と伝えたら、「あそ」と返され、「とりあえず一回書いてみない? ダメならボツにするし、よかったら使ってあげるから」と言われ、私は芸能人の鼻に付くところをあげつらうコラムを書くことになった。
 
こうして昼間は中学生の英語教材の編集を手伝い、夜は自宅で芸能人の悪口を書くためにパソコンに向かった。

見出し画像

Photo by hiilagram

勢いに任せて書いた原稿を編集長に見せたら、「ま、いいんじゃない」と言われ、そのまま採用となったのだ。

翌月、それは雑誌になり、さらに翌月ギャラが支払われた。
1ページ1万円ちょっとで、計4万円ほどが振り込まれた。
これが私の、文章でお金をもらった最初の体験だ。
 
不思議といえば不思議な体験だった。
私の原稿は“てにをは”はデタラメだし、誤字脱字だらけ、普段お友達とテレビを観ながら「この俳優、なんかウソくさーい」とか「このタレント、偉そう」とか言ってることをそのまま書いただけだ。
もちろん、有名人といえども、その人たちのことを悪く書くのは気が引けた。
でもそれ以上に、こんなことでお金が手にできることに驚いた。
これで私はプロになった、なんて微塵も思わなかった。
 
ところが私のコラムは読者投票で2位になり、編集長から「また書いて」と依頼され、私はそれ以降も毎月仕事をもらえるようになる。

しばらくして、同じ月刊誌で書いている同世代の女子ライターと親しくなった。オジサマが読む月刊誌で、20歳前後の女子は私と彼女しかいなかったから、すぐに距離を縮めることができたのだ。
 
ある時、ふいに彼女からメールが来た。
 
「あなたの原稿っていつも可笑しい。じつはファンだった。最初は同世代のライターがいると聞いて意識してたんだけど、読んでみたら面白くって笑っちゃった。わたしはあなたみたいに書けない。春から故郷で教員をやることにしました。あなたは頑張ってね」

こんな内容だった(実際はもっと長い文章で、その一部分を要約しています)。それはすごく素敵な文章で、彼女の心がそのまま感じられた。気取ったところがなく、素直な思いが自然に伝わってくるのだ。
まるで蚕がまゆをつくるために糸をつむぐような文章だった。つっかえたり悩んだりした形跡が感じられず、すらすらと筆が舞い、やがて吐き出された文字たちはある思いを形づくってこちらに届けられる。そんな感じ。
なんて才能があるのかしら、と思った。
 
私はバカだったから編集部で可愛がってもらったけど、まったく才能はなかった。ちゃんと編集長からも「へたくそ」と言われていた(だから、姑息なギャグを入れていろいろとゴマかしていたw)。
一方、彼女のほうは「きれいな文章を書く」と評判だった。
なのに、もったいない。続ければいいのに……。
けど、結局やめて静岡で学校の先生になるのだ。

それからしばらくして、私もライターのようなことはやめて就職することにした。ちゃんとメシが食っていける仕事に就くべきだと考えたまでだ。

ある時、ネットで素敵なコラムを見つけた。
彼女だった。
どうやら教員をしながら、ときとぎ原稿を書いているらしい。
相も変わらず、素敵な文章で、やはり彼女の心がそのまま感じられた。
それに触れて、こちらの心も温かくなる。
まるで体温に触れたように。

文章を書く才能のある人というのは、こんな人を指して言うのではないだろうか。 

私にプロとアマチュアの違いはよくわからない。
生計を立てるのがプロだというけれど、生計を立てていても誰かを前向きにしたり、元気にしたりしていないのならそれはプロとは呼びたくない。
世の中にはそんなビジネスがある(例えば、私が大学生の頃に書いていた原稿などはそれにあたるのかもしれませんねw)。 

ただ、読む人の心を動かす文章があったら、それは綴られてカタマリになって文章になった意味があると思う。
 
誰かのために書いた手紙
閉店とともに感謝を伝える店の貼り紙
転勤と惜別を伝えるメール
毎日少しずつ刻んでいった小説
世の中をよくしたいと練られた企画書
笑わせたいエッセイ
不正を訴えるブログ
ラブレター
遺書……

いろいろあってまた文章を書いている私は、今やっとプロを目指そうとしている。
相変わらず、プロとは何かなんてわからないけれど、あの時の彼女が私の心を温かくしたように、私も誰かの心を温めたい。
人の心を動かすなんて簡単ではないけれど。
才能がないならせめて嘘は書かない。
見栄もはらない。
無知も認める。
アマチュアでいい。
アマチュアを極めたら、それはプロなんじゃないの!?!? 
なんてね。

放送作家&ライター集団リーゼント(note)

https://note.com/reezent

 【真野愛子 プロフィール】
超インドアですが、運動神経はよい方だと思ってる20代女。料理と猫好き。創作ストーリー『暗闇で愛が咲く』に出演。将来の夢はお嫁さん

関連記事

SNSで最新情報配信