【Re SOMEN】ディナーの主役に大変身する夏の風物詩、「創作洋麺」
兵庫県西宮市高松町、西宮北口駅から歩いてすぐの処にあるのは、西宮の老舗洋食店「洋食とワインのお店 土筆苑」。
1973年8月24日「ビストロ土筆苑」として、食事とお酒を楽しむ場として誕生した歴史と趣を感じる外観を見ながら入店する。
気品がありつつも、どこかノスタルジーを感じる温かみのある装いの店内。天井はどこか山小屋の様な重厚感がある柱が通り、波を打つ造形が面白い。それでなのか、BOSEのスピーカーから聞こえてくる音楽の響きがとても心地よい。
今宵に訪れたのは、今年9月より始まった企画が面白かったからに他ならない。そうめんを持ち込めば1000円で、洋食にアレンジして提供するというものだ。夏場に余ったそうめんを棚の片隅に眠らせている家庭には朗報である。
今回は島原手延べそうめん「蜘蛛の糸」を持ち込んでみた。
持ち込む際の注意点としては、ひとり1束までだということ。1皿に1束使う様だ。そうめんを待つ時間がお腹ペコペコで仕方ないので、鶏肉の薫製プレートを頂いた。6種類ごとに食感が違い、旨味にも時間差がある。また、中央のマスタードの粒々感と香りが良かった。
待ちに待った待望の1皿目は、「4種のチーズと生ハムのそうめんパスタ」
茹でたそうめんに、野菜のトマト煮込みを絡め、上からカツオ、カマンベール、ミモレット、ゴルゴンゾーラ、テットドモワンヌと4種のチーズを乗せたもの。
冷製の一品。そうめんと野菜のトマト煮込みがとてもよく絡んでいて、そうめんとの相性が良い。島原手延べそうめんのコシが冷製だとより活きる。トマトとチーズの相性はご存知の通り、最高だ。それも、4種類の旨味と香りを堪能することができる。
2皿目は、「ミラノ風そうめんドリア」
そうめんを茹で、ナポリタンを作る要領で下味をつける。それを容器に敷き、上からホワイトソースとミートソース、チーズをのせオーブンで焼き上げる。グラタンのような感覚の品だ。
チーズも伸びれば、そうめんも伸びる。ひとくち頬張るまでは全く想像がつかなかったのだが、これが美味い。マカロニグラタンよりも麺を感じることができ、マカロニよりも主張しない絶妙な助演をしている。
3品目は、「そうめんとえびのガレット」
そうめんとえび、マッシュルームをフライパンでじっくり焼き、そうめんはパリパリ、えびはぷりぷりに。そこに、えびの殻を炒めて作ったアメリケーヌソースをかけてガレットに仕上げたもの。
パリパリに揚がったそうめんはまるで燕の巣の様な佇まい。ザクザクと切り分けて頂く。パリパリザクザクのそうめんのイメージは、皿うどんのパリパリ麺だったのだが、それよりも程よい塩加減とオリーブオイルの香りがする。ふと疑問に想う、麺に塩加減が残り、細さを保ちながら整形しているのはどうやったのだろうか。そこには、店主のこだわりが詰め込まれていたので、訪れた際に伺って見てはいかがだろうか。これも、ひとつの楽しみ方であろう。
帰り際に気づく。入店の際には気がつかなかったのだが、ドアに言葉が納められていた。
「歩み寄る人に憩いを。歩み去る人に幸せを。」
オーナーのママの言葉が蘇る。
「ここはね、阪神淡路大震災を乗り越えてきたところなのよ。たまたまかもしれないけど、運がよかったのね。内装も配置を変えただけでほどんど変えてないの、面白いでしょ。壁や天井も歴史があって、趣があって、何もしてないのだけど良い感じの雰囲気があるの。」
ママの想いが、憩いと幸せが溢れる空間を編み込んでいるのかもしれない。
土筆苑が開店してから47年。市民の憩いの場であり続ける洋食店土筆苑が届けるそうめんの洋食アレンジに足を運んでみてはいかがだろうか。
UNPORTALISM編集部 吉岡謙志