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ペットの健康は『歯』と『耳』から 獣医師 渡辺理恵さん

Vol.3 The code of 獣医師 渡辺理恵

仕事の裏側にある『生き様』
対話を通して、その人の『輪郭』を浮かび上がらせるインタビュー・シリーズ
The Professionalism Files

兵庫県西宮市の獣医師 渡辺理恵先生は「歯」と「耳」の状態がペットの健康に深く関わっていることに着目し、27年以上にわたり治療と研究を続けています。
日本ではまだ十分に広まっていない分野にいち早く取り組み、独自の道を切り拓いてこられました。


◆『歯』を追求する‐The Turning Point

獣医師になって25年以上になります(笑)
日本の獣医大学では、医科大学と同じように、歯科のカリキュラムは今もありません。あっても数校で、わずか数時間の授業しかないのが現状です。
私が卒業した当時は犬猫の歯の本数しか知らない程度で、日本には学べる書籍もありませんでした。
そんな中、27年前に出会ったアメリカの獣医歯科専門の先生から、犬猫も人間と同じように歯の治療が出来ることを聞いて衝撃を受けました。さらには、既にアメリカで学ばれている日本人がいるということにも驚きました。

もっと知りたい…、当時、日本で唯一アメリカ獣医歯科専門医の資格を持つ師匠に出会い、勉強会に参加するために、10年間、毎月日帰りで東京に通いました。まだ幼い子どもを朝早く預け、夜遅くに迎えに行く。「子どもを休む理由、勉強ができない理由にしない」——そう心に決め、周囲には子どもがいることをあえて伝えませんでした。 限られた時間で必死に学び続けたあの日々が今の私をつくっています。

それだけ歯を勉強したいと思ったのはなぜ?
歯の痛みに苦しんでいるネコちゃんやワンちゃんを助けたかった。歯が痛くてもステロイドなどの痛み止めを与える事しかできなくて、当時はどこにも答えはなかったのです。
唯一、その先生だけが”答え”を知っていました。
「私たちが日本の動物たちの歯を変えるんだ」という使命感もありました。やっぱり誰かが勉強しないと。

それと私は”大工仕事”が得意なのです。動物は虫歯がほとんど無く、歯科といっても口腔外科がメイン。 口腔外科は”大工仕事”によく似ています(笑)。口腔外科はドラマティック。白黒がはっきりとしています。
出血が一番多い場所なので、怖さはありますが、「誰にも治せない状態でも私なら治せる」というのはやりがいがあります。

治療が終わると飼い主さんはすごく元気になるのですよ。
転院してくる飼い主さんたちは「自分が知識不足だった」と泣かれることも多いです。でも、そもそも獣医の多くが、歯科を学んでいない。歯科のことを解っていないことさえも、分っていないケースが多い。
かかりつけ医が歯を診て、綺麗だとか何も言われなかったからといって、安心してしまった飼い主さんの責任ではなく、業界全体として申し訳ないと感じています。
直ぐに体制が変わることは難しいので、飼い主さんには”選ぶ目”を持ってほしい。
「歯の相談をどこにしたらいいのか?」と聞かれた場合には「最低でも、歯科用レントゲン、デンタルユニットを持っているかをホームページ等でチェックされると良いのでは」、とお伝えしています。

◆うちの患者さんの歯と耳は綺麗‐My quality, My standard

開業当初、「たかが歯石取りで麻酔をかける動物病院」と陰口を叩かれたこともありました。
歯石は付いたら取る。塗るだけで歯石が取れるサプリなど、人の歯科医院では使わせていません。

歯をきれいにしたら思わぬ副産物が
「先生、歯を綺麗にしたら涙焼けがなくなって、肌もきれいになりました」と飼い主さんが言うのです。その頃まじめだった私は「は?はぁ?口臭が無くなって、元気に食べられるだけで感謝してよ」って。
変なこと言うな、うちの患者さんはと思っていました。
皮膚病の認定医になるために勉強をしてた頃でしたので、皮膚の知識もありましたから。

私はしつけ教室もやっているので、患者さんとのコミュニケーションは取れています。

ある時、飼い主さんから、耳の奥の検査をするためのビデオオトスコープで耳を診て欲しいとリクエストされました。
そのうち何人もの犬の飼い主さんが言い始めたので、ビデオオトスコープのある栃木県の犬猫の耳の病院に見学に行きました。
そこで、全国各地からこの病院に治療を求めに患者さんが来られていると知り、当院でも導入を決めました。

アメリカの獣医師から耳の治療を習っていたこともあり、耳の治療にも自信がありました。私の患者さんの耳は綺麗!そう思っていました。 ところが実際にビデオオトスコープで検査すると、なんと8割以上の耳に感染があったのです。
耳を治療してみると、私がアレルギーだと診断した犬猫が痒がらなくなり、アレルギーの薬や除去食が不要になったり、繰り返していた皮膚病が治った犬猫が続出したのです。

経営危機
皆、治ったので、薬や通院の必要なくなり、売り上げが下がってしまいました。(笑)
しかも、痒がるからと診察に行っただけなのに、麻酔が必要なビデオオトスコープの検査を私が勧めるので、「あそこは耳や歯ぐらいで麻酔をかけるから、行かない方がいい」と近所のペットショップで噂され、患者さんも減りました。
その上、新型コロナの影響で倒産寸前でした。

耳はいい、もうやめよう。
陰口言われるし、売り上げは下がるし、耳はもうやめようと思いました。
ところが、ある患者さんがまた耳を診て欲しいと。
「実は耳を治療してから目やにや涙やけが治った」と言うのです。
また素人が変なことを言っている、と思ったのですが、他の患者さんも口々に耳を治したら目が良くなったと言うのです。
学会で発表したくても、病院に来る前に、飼い主さんが目やにを拭き取ってしまうので、私はビフォーを見たことがない。そこで、昨年「涙やけに困っているワンちゃんいらっしゃい」と募集しました。
そうしたら、飛び込んでくるんですよ、遠くからも。
涙やけは命にかかわらないので、獣医師としては興味が持てませんでしたが、飼い主さんにとっては大きな問題だったのですね。
「ここに来たら涙やけが治る!」と、口コミで多くの方が治療を受けに来てくれるようになりました。

◆信念・哲学‐Professional coad



飼い主さんの目ってすごいです。ご自身の犬猫をよく観察して、私に教えてくれる。患者さんから、歯と耳のケアで本当に治るんだなって、気付かされました。
「素人が何を言ってるんだ」って患者さんに対して愛想なく、笑わない時期もあったのですが、今は獣医師業界の問題点も全部話してます。私と患者さんは1つのチームです。

やりがいは、患者さんが笑顔になること。
精神科医の樺沢紫苑先生にYouTubeなどの情報発信などを習っていたのですが、獣医師業界の裏側を暴く気がして、なかなか動画を上げられなかったんです。 そんな時に先生に「学会と患者さんは両立できない」と言われ、私は開業時に大変お世話になった患者さんの立場に立つと決めました。


今も学びつづけています。
口の悪い教授から「犬猫の獣医師は過剰な時代がくるから、お前ら女は開業するな」と言われてました。そのため当時から、勉強の必要性を強く感じていました。
その一方で、アメリカは専門医に分かれすぎていて、患者さんはどこに行ったらいいか分からない。だからあなたは良きジェネラリスト(一般医)になりなさいとアメリカで学んでいる時に言われました。
特にうちは、他の病院では高齢などの理由で治療をしてもらえず、諦めきれずに飛び込んでくる患者が多いのです。「食欲がない」と言われても、内臓は大丈夫、脳も大丈夫、他に原因ない?ってすべてを疑って診ないと。歯が原因の場合にはまず、元気にしてから口腔外科に持ち込むので、一般診療の知識がなにより大切なんです。

◆これからの展望‐Future Vision

今は歯磨きをしている飼い主さんが増えてきました。歯のケアの重要性を理解されているので、予防歯科で来院されます。
子犬や子猫の入試の生え変わりや、矯正も得意なので、それも知っていただきたいです。
また、うちでは子犬に乳歯の治療が必要な場合、合わせてビデオオトスコープで耳を診ます。だいたい8割くらいが汚いです。
耳の感染も歯周病と同じように、母親からうつるのではないかと推察しています。

飼い主さんのおかげで、歯と耳を治したら皮膚病や涙やけが改善されることがあることを発見。
いろいろあって、2023年1月、病院名を歯と耳、皮ふ、ココロの専門病院ハ(歯)ミ(耳)ル(観る)ザ(一座)ハミルザに改名しました。

歯科や皮膚の治療を必要としている飼い主さんに情報を届ける為にも、YouTubeやブログでの発信に力をいれていきます。また、私が学んで実践してきたことが、世界中に広まるように、獣医師にも伝えていきたい。
現実を知ると悲しむ患者さんがいるので、発信は慎重にしています。
飼い主さんから「手遅れですか?」と問われることがありますが
気付いたその日がスタートです!」
とお答えしています。

◆「あのババアと言われて暮らす」‐After talk

歯だけを診ていても分からなかったし、皮膚だけを診ていても分からなかった。好奇心の塊である自分が、いろんなものと結びつけられたのは、運が良かったのだと思います。

獣医の世界に少しだけ波紋を起こして死にたい。
「あのババアが言っていたことは当たってたな」って言うと思うんです。どんなことがあっても怖くない年齢になるってすごいですよね。特に女の人は強いです。私の歯の先生も、耳の先生もどちらも女性でかっこいい人です。

「あのババア、変なこと言ってるな」と言われて暮らします。

(文:伊東綾子)

◇Profile
渡辺理惠

兵庫県西宮市 Hamilza動物病院 院長 獣医師

当院の得意分野は、犬猫の「歯科」「皮膚」「耳」「心理分析」「行動治療」です。
西宮市の動物病院(大阪・兵庫対応)|Hamilza(ハミルザ)動物病院.

  

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