
『これしかなかった』努力で道を切り拓いた、声のプロフェッショナル。 AIには真似できない、人の心に届く声の表現とは
Vol.1 The code of ナレーター下間都代子
仕事の裏側にある『生き様』
対話を通して、その人の『輪郭』を浮かび上がらせるインタビュー・シリーズ
The Professionalism Files
◆これしかなかった‐The turning point
努力していると思う。 やったんじゃないかな。声は磨きまくったし、すごい練習もしたし、努力系ですよ。
才能が凄くあったわけではないので。もともと持っている声の質感は才能かもしれないけど。
努力できた理由があるとすれば『これしかなかった』から。私ができることは他にないと思って、そうしたらこれを極めるしかないし、上達したいっていう気持ちがありました。
今でも声を磨いておかないと、声は直ぐにサビるから、サビさせないように努力はしています。
最初は目標となる人はいませんでした。
途中で槇大輔という、私の師匠になる人に憧れて、その師匠の下で10年間
東京まで通って学びました。
それまでの私は、他人のことをバカにしていました。大阪のナレーターは全然パッとしないなって(笑)。
「なんでこんなに努力しているのに、私よりもあの方が売れてるのかな」って思っていました。その人も努力していたかもしれませんけど。
私は顔で勝負が出来なかったんですよ。
最初は若くて、可愛くて、愛想が良い人たちと勝負していたんですよ、私。それでオーディションに行っても落ち続けて。
もう仕方ないじゃない、顔は顔だから。
みんなは愛想が良くて、私は無表情でしたから。
その代わり、正しく綺麗に読むことに必死になっていたの。だけど、やっぱり愛想が良くて気の利いたことが言える方がいいじゃないですか。
第一印象で明るい方が絶対に良いのに、もともとの声が低めだから…
『可愛い子ぶる』ということが大嫌いだったから、可愛く振舞える人を妬んでいたと思います。
だから、自分は声と喋りを極めるしか、この世界で生き残る道はない。他の人より群を抜いて上手くないと、オーディションには合格しないわけですよ。オーディションって凄く厳しいから。
個性をいかに出していくか、一工夫するところはありました。かといって自分の素を出せないキャラクターだったから、その頃はカッコつけちゃっていたんで。
可愛げもない、ダメな自分も出せない。だから採用されない。
「向いてないんじゃないの」って言われたこともありました。
そんな中でも、合格したのは筆記試験からスタートするラジオ局のオーディションだったわけです。社会、経済に答えられる人間じゃないと、ニュースを読めませんから。だからその知識を日頃から持つ努力はしていました。
◆‐My quality, My standard
ラジオのニュースのアナウンサーとしては『100点に近い』と言われるほどやっていたと思います。臨機応変に何でも対応するし、DJにも頼られていました。
でもある時、正しく綺麗にお伝えすることしかできない自分に愕然とするんです。
表現力がない。このままだとヤバい。
売れてしまったがゆえに、気づくのに7年かかりました。
表現力がないと言っても、小手先で対応していましたから。
現場で上手く読めなくて泣いたことがありました。
例えば「1978年」この年号の一言だけで、何度も録り直しになったことも。
この年がどんな年かを考えもしないで、ただの数字として読んでいたの。
事実だけを伝えればいいニュースでやってきていたから、今だったらAIに取って代わられる読み方でした。
ナレーションの原稿に寄り添う
奈良の薬師寺のナレーションのお仕事を頂いた時に、事前に薬師寺を巡り、ナレーションの原稿に寄り添うことをしたんです。それを監督さんがとても喜んでくれました。 それで、今度はロケに同行させてもらって、皆で一生懸命に作った映像の、最後の最後に私がナレーションをするんだという責任を目の当たりにしたんです。
それからは『作品作りの一員である』という意識が凄く高まりました。
最後のナレーションでコケたら、台無しになりますから。
それぐらい丁寧に作り上げた素晴らしい映像には、大切にナレーションしなくてはいけないし、だからこそ選んでいただけたというのは、すごく喜びでもあるんですよね。
◆信念・哲学‐Professional code
若い頃はあえて、『レギュラー番組はやりたくない』って思っていました。突発的に発生する受けたい仕事に対応できなくなるからです。
でも今は、レギュラー番組ではナレーションに”遊び”を入れられるようになったので、楽しいです。ある程度提案できるようになりましたから。
今はもう「こうして、ああして」ってリクエストしてくる人が少なくなってしまって、つまらない。生放送の現場でも、ちゃんとリクエストしてくれる人がいて、そういう人が担当だと、やりがいがあるし、張り切ってやります。
もともとお喋りが好きで、趣味を仕事に出来た貴重な人なわけです。それをいくつになってもやらせてもらえているのは楽しいです。
「下間さんは面白いから、ラジオのパーソナリティ―向いてるよね」ってずっと言われ続けていました。でも私は、ろくでもないことを言ったり、放送禁止なことを言ってしまいますから(笑)。
フリートークの生放送ではなく、原稿のあるナレーションで身を立てて行こうと決めたんです。
5年目になるClubhouse 耳で読むビジネス書(耳ビジ)はスポンサーがついている訳でもないし、誰かから文句を言われるわけでもないし、嫌だったらリスナーさんが聞きに来なければいいだけなので。どれだけ気が楽か!自由奔放ですよ。だからストレスがない。
若い頃、FM802 でニュースを読む時にいつもイメージしていたのは
私のニュースの声を聞いて、「この声の人にやってもらいたい」とオファーがくること。
かつて、学校の先生に「良い声しているね、アナウンサーになれるよ」って声をかけてもらった時のような、夢のようなキラキラした瞬間と同じように。『たまたまラジオで聞いたあなたの声が良かったから』なんてオファーがきたらいいなって、ニュースを読んでいました。
実際に、声のご指名が入るようになった時は夢が叶ったような気持ちでした。
一昨年、ABCラジオの古川アナウンサーの番組で、絵本の朗読をしたんです。
それを、たまたま聞いていた方から、講演会で話をして欲しい、朗読もして欲しいとオファーをいただきました。
そして、その講演会に来ていた雑誌の記者の方から、「朗読のコツを書いてほしい」と声をかけていただきました。
一つ一つのお仕事が、出逢いをよんで、その次の展開になっている。一生懸命に仕事をしてきたからだと感じています。
ご縁繋ぎを自分の仕事を通じてやれている。
耳ビジをやっていたから、昨年は本が出せた。
人生紆余曲折あっても、最終的にプラスマイナス平均値になるから
過去一生懸命やってきたことが、今、大器晩成的に報われていると思うこともあります。
◆夢‐Future code
NHKスペシャルのナレーションをやりたい。NHKスペシャルは時間もお金もかけて作り上げているものだから、その最後にナレーションを入れられたら最高じゃないですか!そんな素晴らしい作品に携わりたいです。
それと、昨年本を出すことが決まった時に、作家の本田健さんから「1冊で終わらせてはダメだよ。最低でも10冊は出そうね」と電話をいただいたので、1年に1冊という目標は持っておきたい。
その中の1冊に好きな小説や、エッセイが書けたらいいなと思っています。
そして、教え子たちが活躍して「都代子さんのおかげで」って言ってくれるのが夢!
(文:伊東綾子)
◇Profile
下間都代子
声で作品をバージョンアップさせるナレーター。阪急電車の声の人!
元FM802アナウンサー。約8年の勤務を経て、現在フリーアナウンサー、ナレーターとして活動中。 低音から高音までと幅広い音域を持つため、固いナレーションだけでなくキャラクターボイスで人格を変えることもしばしば。低音ボイス=アルトの声質を生かし、歴史や芸術に関する語りや報道情報番組のナレーターとして活動。渋い声で面白いことを言うギャップを買われ個性的なCMなどにも起用されている。
また語りの舞台や、ラジオドラマ、映画などにも出演。主演映画がカンヌ国際映画祭で正式上映された。
音声SNSのclubhouseでは「耳ビジ★耳で読むビジネス書」主宰。
ビジネス書の朗読番組で毎朝ベストセラー作家とキレッキレのトークを展開中。
