【現役教師の考察】オンラインがあれば本当に大丈夫?
「オンライン学習があるなら、学校なんて行かなくても学力は上がる」という意見を耳にすることがありますが、現実的にオンラインのみで学力を上げることができる子どもたちは、まだまだ少数派です。
コロナ禍で休校が起こるまで私も「勉強するならオンラインだけでもできるでは?」と思っていました。しかし実際にはなかなかハードルが多くあります。
オンラインの学習だけだと、学校などで対面の学習をするよりも学習効果が1/3程度になってしまうというアメリカの研究があるそうです。周りと一緒に共有する空気感、人の目など様々な要素が人間の学習効果に大きく影響するようです。
もちろん学校には、まだまだ課題が多くあります。学力以外の問題(ここまでいろいろ話題になってきた教員の力不足、一斉授業による弊害、ブラック校則など)で、「学校不要論」を目にすることがありますが、こちらはまだまだ改善すべき課題です。「子どもたちが辛い思いをするのであれば、学校には行かずオンラインで学ぶ方がいい。」という意見は、私が言うのは立場上あまり良くないかもしれませんが、的を得ていると思います。心身の健康を優先することは学校に行くことよりも大事です。こちらの課題は、教育現場だけでなく社会全体で改善をしていくことが必要でしょう。
ただ学力単体で見た場合、「オンラインだけで十分」と言えるかというと、そう簡単ではありません。実際に自分で学習する環境を整え、計画的に実施することは子どもたちにとって簡単ではありません。
またこの時期、動画などの素晴らしい教育コンテンツが増加し、世の中に溢れるようになりました。しかし多くの子どもたちがそれらの動画を見ているかというと、決してそうではありません。自力で探すのには限界があり、ただ単に羅列されても多すぎるので、見るのは一部の人に過ぎないことも多いのではないでしょうか。もちろんそういったコンテンツがあることは大事なことです。存在することには大きな意義があると思います。
有効な選択肢の1つですが、それが多くの子どもたちに届いているかどうかはまた別の問題で、課題も多くあります。
どれだけ進学校にいても、中学生は中学生、高校生は高校生です。もともと知識を兼ね備えて、学習を全て自力でできるわけではありません。もちろんそれをできる子どもたちもいますが、現在の状況ではそこまで多くはありません。様々な支援があって、子どもたちは自立していくので、オンラインとどのように付き合っていくのか、どう活用していくのか、そのメリットやデメリットなども含めて、子どもたちが学んでいくこと、学ぶ機会を得ることが必要です。
また「オンラインの方が良い」と言う人は大人たちが多いように感じます。しかし大人はもうすでに学校教育を終えており、オンラインの活用方法などについても、経験でうまく活用できる人が子どもたちよりも多いと思います。大人はスマートフォンではなく、PCの大きな画面で自由に動画を見ることができるし、ネット環境を整えることができる人が多いでしょう。しかし大人は、学校教育を受けている当事者ではありません。子どもたちが1日中集中してオンラインで学ぶことができるかというと、実際にはかなりの難しさがあると思います。
このように「子どもたちの考え方」と「大人が良いと考えるもの」には乖離もあると思います。どちらが良いということではありません。どちらも重要です。こう言ったことをもっとオープンに議論ができたら良いと思います。
今後、学校ではなくオンラインが学習のメインになり、学校がサブになることも可能性としてはあり得ます。ただ、まだオンラインを自由自在に使って学んでいく子どもたちは現時点では少数派でしょう。今後そういう子どもたちも増えてくるでしょうが、まだまだ実際にいろんなことを考えてみると、期待もありますがハードルも多いです。
できるのであれば、それぞれが様々な方法を選べるようにしたり、学年や学期によってシステムが変動したり、効果的な方法や研究が進み、もっとオンラインや対面の選択の幅が広まっていったら良いと思います。近年、様々なタイプの学校も増えてきましたが、まだまだ世間一般に広まっている状況ではありません。このような動きや多様な考え方が世の中に浸透し、子どもたちが選択できることが一般化していく世の中になってほしいと思います。
逸見峻介:埼玉県高校教諭
1988年 埼玉県秩父市生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科を修了した後、埼玉県の公立高校教員(地理歴史)へ。
場づくりとコミュニケーションの専門家育成プログラムである青山学院大学ワークショップデザイナー育成講座修了生(27期)。「人間っていいな!面白いな!」と思える人を増やすことを目指し、日々必死に生きている。教育を中心とした場づくりに関心があり、学校の中と外で活動するパラレルワーカーとしてチャレンジを重ねている。勤務校では「生徒が主催者となる放課後セミナー」の企画運営を担当、学校外では高校生・大学生・大人(教員・民間企業・NPO)などとコラボして一緒に場づくりを行っている。「教育×パラレルキャリア」・「大人の歴史講座」ページ主催。