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教育界が大注目!?「システム思考」による新しい学びとは?

一般社団法人ティーチャーズイニシアティブ(TI)が主催する「21世紀ティーチャーズプログラム」の卒業生が現在の活動や教育成果を交流する「第1回アルムナイラボ」が9月12日に行われた。登壇者はシステム思考教育家であるTI 4期生の福谷彰鴻さんだ。アメリカでMBAを取得した後に一般企業に就職した福谷さんは、3年前まで教育に縁もゆかりもなかった。しかしTIの熱意溢れる先生方との出会いがきっかけで、それまで学んできた「システム思考」と教育を結びつける活動を開始し、その新しい学びは多くの先生方や教育現場の間で広がりをみせている。システム思考とは何か、そしてその学びはどのような変化を教育にもたらすのだろう。

システム思考を教育に

 アメリカから帰国後の福谷さんがシステム思考教育家として活動を始めたのは2018年。TIで講演を行った際に上がった「『学習する学校』(ピーター・M・センゲ著)という本、一人で読むのは大変だよね」という先生方の声がきっかけであった。『学習する学校』は今日の教育を取り巻く諸問題を踏まえた新しい学び・システム思考を唱えた書物だが、888ページの大作を読破するのは非常に難しい。そこでピーター・センゲ氏のもとでシステム思考を直接学んだ福谷さんが、月1回の頻度で教員に向けた読書会を開くこととなった。読書会に参加した先生方を中心にその学びは広まりをみせ、1年後には定期的なワークショップ、最近では学校の「総合」の時間にも積極的に導入されるようになる。

「システム思考は実際の事例や通例を利用して実践しながら学びます。ただ物事を分析して話し合うだけではなく『自分はそこにどのように関わっているのか?』という視点を持つことが大切なのです」そう福谷さんは語る。

難民問題をシステムの中で読み解く

 「2015年に大量発生したシリア難民。実はそれは、気候難民だったといわれていることをご存じでしょうか。」

 講演中盤、福谷さんからそのような問いかけがあった。現在のシリアは難民、紛争、失業など諸問題が複雑に絡み合っていて全体像が見えにくい。福谷さんはこれをシステム思考から分析する。

 「大量の難民は内戦によって発生しました。内戦で職や住む場所を失った人々が難民となって何十キロ、何も移動して国外に避難したのです。しかし、そもそもどうして内戦が起こったのでしょう。」

 それは、政府の弾圧に対する若者の一つのデモから始まっていた。

「若者がデモを起こした理由は、職を就くことができずに政治不信に陥ったから。当時の町は人口が急激に増えて安い労働力で溢れかえり、若者は職を失いました。どうして町の人口が増えたか、それは、農村の人々が町に押し寄せたからです。」

 福谷さんはホワイトボードにペンを走らせる。

 「街に押し寄せた人々は村で農業をやっていては暮らせなかった。理由は5年続いた日照りでした。だから貧困に苦しんだ農村の人々が安い労働力として町に溢れ、失業率や政治への不満が高まり、争いが起き、結果として難民を生んだのです。つまりシリアで多くの人々が苦しんでいる難民問題は、気候変動が原因の一端だったのです。」

複雑な社会と私たち

 難民、戦争、環境汚染、差別、生態系の崩壊…、様々な社会問題が複雑に絡み合う世界で生きていると、ニュースで難民が溢れかえった光景を目にしてもどこか縁のない出来事に感じてしまう。そのような中、システム思考は私たちの周りで起こっている事象、さらには世界を取り巻く諸問題を「自分が関わっている相互関係のシステム」として理解することを促している。

 「難民問題の原因が気候変動にある以上、私たちに無関係の話だと片付けることはできません。今見えている範囲でベストを尽くして生きているとなかなか、世界の向こう側で起こっている問題と自分を結びつけることは難しいものです。しかし私たちはシステムの中で相互に影響を与え合いながら生きていて、それは時として思わぬ結果を生み出してしています。だとすると果たして教育は、目の前の社会を自分とは関係のない「向こう側」の出来事として理解することに留まっていていいのでしょうか。」

 今日、教育システムの様々な課題が指摘される中、自身の視覚範囲を超えて全体を俯瞰する新たな視点としてシステム思考は注目を集めている。

編集後記

  先日、エドウィン・O・ライシャワー氏の「The meaning of Internationalization」を読んだ。既に30年以上も前に書かれているが、現代の日本の教育システムにも通じる鋭い指摘や見解を含む非常に興味深い本であった。本著の中に、子どもの発達と各教育段階における視野の広がりについて言及する部分がある。「幼少期の子どもは両親や兄弟との狭い関係の中で生きている。それが成長するにしたがって先生、友達、地域社会、職場での対人関係など次第にコミュニティは広まってゆく。しかしそこまでで留まる現在の教育システムでは、世界を理解しようとする広い視野を持つ若者は育成されないのである」。グローバル化が加速する今日、英語教育を筆頭に国際化に対応するべく様々な教育改革が行われている。しかしどんなに流暢に言語を操ろうとも、複雑な世界を読み解く思考力や想像力を持ち合わせる若者は未だに一握りに過ぎない。システム思考はそのような学校教育に変化をもたらす鍵を握っているのではないか、福谷さんの講演を聞きながら私は期待に胸を膨らませた。

(Unportalism Education 編集部 井戸静星)

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