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【特別支援学校の現場から見る全国休校】

新型コロナウィルスの感染拡大防止策として、政府から学校の一斉休校要請が出されました。

全国一律で休校とはなりませんでしたが、実際に休校の判断をとり3月から生徒が登校しなくなっている県立特別支援学校の担任教師に、今回の休校判断についてインタビューしました。

群馬県立特別支援学校で高校3年生の担任をしている白井先生


今回の休校要請について、どう思われましたか?

個人情報の問題もあり、なかなか個別具体的な話はできないので、私個人としての考えや関係機関から聞いていることについて答えさせてください。

希にですが、特別支援学校の生徒の中には教育放棄や虐待等を受けていて、自宅に居場所がないケースがあります。
特別支援学校の役割は、そういった生徒が、友達や教師と関わりながら役割を担ったり、学習をしたりしながら自分の役割を見いだしつつ社会に出る準備をする場であると認識しています。

学校は生徒の居場所をつくりながら生徒を支えているのですが、今回のように準備期間をとれずに長期休みを迎えた家庭がどこまで子ども達のことを支えていけるかは、その家庭環境によるので、非常に心配です。
この休み期間を利用して休養にあてる、自主学習をする、自主的に運動をするということができればよいのですが、社会環境に適した判断をすることが難しい家庭もあるようなので、本校はもちろんですが、休み明けの各学校の様子は気になりますね。

また、急な環境の変化に対応できず、混乱してしまう生徒が特別支援学校の中には一定数います。混乱すると、場合によっては自傷(自分のことを攻撃する)、他害(周囲の人を攻撃する)を行ってしまうことも少なくありません。
その生徒は習慣化されたスケジュールの中で生活しているので、保護者がどこまで対応できているのか…

卒業式の練習や準備が整った段階での休校要請でしたが、卒業式についてはいかがでしたか?

在校生及び来賓は出席できませんでしたが、幸い本校では卒業式自体は実施できました。 (白井先生の自治体の県立高校は毎年3月最初の授業日に卒業式を実施)
在校生が登校しないことを受けて、音楽担当の教師が在校生の音声を録音して、式当日はCDを音源に在校生が歌う「旅立ちの日に」の録音音声と出席者で見事なハーモニーを奏でていました。
環境の変化にすぐに適応できる教師は非常に心強いと感じましたね。

小規模での卒業式とはいえ、小さな体育館に出席者がたくさん集まるのは少し不安でしたが、無事に式を終えた生徒たちの顔はとても晴れやかでした。
式が終わって最後のホームルームをしたとき、生徒たちの表情から気持ちに区切りがつけられたことが伝わってきました。
卒業式は生徒が次の進路先に向けて一歩を踏み出すための大事な行事であると改めて感じました。

春休みまでの約3週間は授業を実施できませんよね。授業時数確保について学校としての対応策などは話し合われているのでしょうか?

本校の授業は非常に柔軟性が高いです。
おそらく多くの特別支援学校にいえることだと思いますが、「この時期にここまで終わらしておかないと」のような教科書を追うような学習形態をとっていないところがほとんどではないでしょうか。

今回休んだ分、夏休みの日数を削って授業時数の確保に充てるというような話は今のところ出てきていませんが、これは教育委員会の方針に従うのでしょうね。


学校に来られなくなった生徒たちはどのように過ごしているのでしょうか?

本校の場合、多くの生徒が放課後等デイサービス(以下、「放デイ」という)で過ごすことなったと聞いています。もちろん、そういった福祉サービスを利用せず在宅を選択する家庭もあります。
受け入れ可能な放デイを利用させてもらい、居場所を見つけられた生徒は幸運だと思います。
急遽対応していただく放デイなどの福祉サービス事業者の方達には感謝しかないですね。

放デイを利用できず、自宅で過ごしている子どもの中にはネット上で居場所を見つけ、顔を見たことがない人たちとつながっていることも多いです。
ネットでつながった人たちと一定の距離感を保てればよいのですが、そこの判断は非常に難しい。
本校の生徒ではまだ聞いたことがありませんが、特別支援学校に在籍している生徒たちは出会い系サイトなどでの被害者になってしまうことが多いと聞きますね。

とはいえ、ネットに接続できる端末を取り上げれば解決するかといわれると一概にそうとはいえないのが困りどころです。どうなってしまうかというと、ネット上で発散していた欲求が満たされず、非行に走って生徒指導案件を引き起こしてしまうケースもあります。
また、急遽休校になったことで子どもの面倒をみることになった保護者の怒りが子どもに向けられてしまう虐待、子どもの世話をしないネグレクト、孤立化してしまった子どもたちの二次障害(精神障害)なども考えられます。

「え?休校になるとそんなことまで心配しないといけないの?」と思われるようなことが実際に起こってしまうのが本当に怖いです。

生徒が登校しないということは学校からのお知らせも配付できないと思うのですが、保護者への連絡はどのようになっていますか?

私は高3生の担任で幸い学級の生徒たちの進路が決定していたため、3月に入ってから保護者と密に連絡をとらなければいけない状況ではありません。卒業式も実施できたので、私自身は保護者と連絡をとる機会はほとんどないと思います。
高2以下の担任陣には、職員会議で校長から各家庭に電話連絡をしながら在校生の様子を確認するよう話がありましたね。

また、保護者に通知表や配付物を学校まで取りに来ていただくよう担任から電話連絡し、各家庭に来校していただいているような状況です。
個別性が低く、学年関係なく全家庭に向けた連絡事項については学校のHPで掲載していますね。

ただ、各家庭に電話連絡しても保護者が子どもの様子をうまく言語化できないケースもあります。
直接生徒と電話で話せることもあるのですが、障害特性でうまく言葉を発せない生徒もいます。
生徒の表情や行動を見て、直接その子の様子を確認したいという思いが担任にはあるのですが、家庭訪問をすると感染リスクも高まるので、その点は教師として歯がゆいと思います。

卒業学年のクラスには生徒の荷物はありませんでした


今回の休校は、生徒の進路計画についてどのような影響が出ると思いますか?

本校は卒業式の翌日から進路先に行く生徒がたくさんいます。
各福祉サービス事業所や企業が予定通り3月から受け入れてくれるかについては、進路担当の教師が確認してくれました。
結果、全ての事業所で受け入れについては問題ないと回答してくださったので安心しました。

ただ、在校生については3月に職場実習を予定していた生徒もいたのですが、今回の休校を受けて職場実習は全て中止になりました。

職場実習が中止になったということですが、この騒動が年度末ではなく繁忙期だったらどうでしょうか?

本校の場合、職場実習と称して企業や福祉サービス事業所でインターンシップをしながら「事業所のことを知る」「本人のことを知ってもらう」を繰り返して相互理解を深めるとともに、生徒個人の課題を克服しています。
その中で、ある程度の力がついた生徒については「障害を持っている生徒が繁忙期にどこまで動けるか」を確認しています。
その時期に職場実習をお願いできないとなると、就労に繋がる確率がグッと下がってしまったかもしれないですね。

学校内でも職場環境を再現した教室を設けて仕事のシミュレーションを行うのですが、やはり実際の職場に出向いて仕事をすることには敵いません。
繁忙期にも戦力として活躍できたことは、職場の方の安心に繋がりますし、本人・保護者の自信にもなります。

また、職場実習期間中であれば、教師が巡回指導をしてフォローすることができるので、生徒の段階的な成長をサポートすることができます。
もし、進路先を本格的に決めるための職場実習の機会が今回のように失われたとすると、非常に痛いです。

今後も似たような騒動が起こる可能性はゼロではないと思いますが、今回の騒動を受けて感じたことはありますか?

私がいつも考えている「担任としての役割」は、生徒が一歩踏み出す瞬間を応援することです。
生徒をサポートする関係者は家族以外にもたくさんいます。
なので、応援してくれる人をたくさん増やすことが非常に大切です。
なんていうことを話しましたが、改めて考えると今回の騒動があったからといって私自身の考えや行動には何も変化はありません。
主役である生徒が一歩踏み出す瞬間を支えるために、日頃から目的を持って仕事に取り組むしかないと思います。

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