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2024連載企画「未来の先生インタビュー」:堀川先生に聞く、キャリア教育とは~未来をつくる子どもたちとともに~

現役教員のリアルを深掘りする企画「未来の先生インタビュー」。2024年第一弾は、書道・情報科の教員免許を持ち、現在は大阪府にある私立中高一貫校「香里ヌヴェール学院」でキャリア教育に力を注いでいる堀川浩二先生にお話を伺った。

現在堀川先生は高校で、多くの生徒が大学進学を目指す環境の中、キャリアデザインの授業を行っている。ここで、「大学に入ってから本当にやりたいことは何か」「卒業してからどのようにして生きていくのか」といったことについて考え、自分を見つめるような授業を行っている。

ここでは堀川先生の教育への思いと授業実践について迫っていく。

教育に対する思い

 まず、堀川先生の教育観(特にキャリア教育の視点から)と教育を行う上で理想とするものについて尋ねた。これまで多くのことにチャレンジし、様々な道を歩んできた堀川先生だからこその考えがあるのではないか、その考えについて堀川先生はこう語った。

「近代以降の日本の教育は、子どもだから勉強し大人だから仕事をするというように、学びと仕事がセパレートになっていると考えます。そうした現状を踏まえつつ、近代以前に子どもも働いている人の中で学びを得ていた時代があったように、学校教育でもっと社会と子どもが『現代的にアップデートされた学校と社会がシームレスに繋がる場』をつくっていきたい。自分も古い教育を受けてきているのでどうしても教えてしまいますが、教師として教えるのではなく、『社会にはこんなものがある、こんなことができる、こんな考えがある』といった素材を提供し、それに対して生徒自身が面白いと感じるものを見つけるきっかけをつくることが自分の使命なのじゃないかな。

 自分は『子どものために、生徒のために』何かするのではなく、『生徒と共に、生徒と一緒に』何かすることが近道だと思っています。そんな中で生徒が面白いものや興味を持ったものを見つけて行動しようと進んでくれるのが理想かな。」

キャリア教育を通して生徒に向けた願い

 キャリアデザインという授業で自分の人生を振り返ったり、なぜその進路を選択するのかを考えたりする自己分析を行ったところ、たいていの生徒が目前の進学のために過ごしているため、なかなか生徒には響かない部分もあるそうだ。

 「授業を行うことで生徒全員に変化を起こすことは無理なことでしょう。ただ、一部の生徒には面白いと思うことがあったり、興味を持つ子もいたりする。100人いたら100人全員に響かなくても1人に響けば良い。その1人の子に何か考える余地を与えることができれば、それはそれで幸せなことだと思います。

 興味を持ったことをやっていくうちにその取り組みがわかってくると、生徒自身も面白くなって『先生、次はこんなこともしてみたいんだ!』と自分から持ってくるようになってくる。そうなると子どもたちが学びに自走しだしたと実感します。」と堀川先生は語った。

授業実践と生徒との関わり

 キャリア教育の授業実践では、チームビルディングを行う授業で謎解きゲームを行ったことを紹介していただいた。この授業はQRコードを貼り付けたメダルを教室のいたるところに隠し、生徒をドラクエのオープニングと共に迎えるところから始まる。その後教室にあるメダルを探して、持っているタブレットでQRコードを読み取り、サイトに出てきた謎を解いていくという活動を行っていた。実はこの問題にチームプレーで解かなければならないものが織り交ぜられており、この活動を通して他者と協働して問題を解くことの大切さに気づくことができるようになっていた。最後にドラクエ風のエンディングで授業を締めくくった時には生徒から拍手が起こったそうだ。

実際にチームビルディングを行う授業で使用したメダル(左上)と謎解きのページ。

飲み会でもよく行い、とても盛り上がるそうだ。

(実際にチームビルディングを行う授業で使用したメダル(左上)と謎解きのページ。飲み会でもよく行い、とても盛り上がるそうだ。)

 「活動が終わった後に、『仲間って大事だよ』とか『最後まで諦めずに問題に取り組む姿勢、これが今後大切になるよ』と言ったら、それくらいは皆に響くものがあったみたい。」と堀川先生は笑顔で語っていた。

 堀川先生は以前行っていた情報の授業から探究活動に重みを置いて授業を行っている。この探究活動は企業の提示する課題に対して生徒が考えるというもので、学校と企業との関わり方に注目できるものとなっている。この学校と企業との関わりについて堀川先生はこう語った。

 「生徒が探究活動を通して自分が面白いと思ったことを見つけることも大切ですが、大人と子どもが対等である関係性を生むことで、大人の方から子どもたちのすごさに気づくかもしれない。大人であっても学んでいかなければならない現代で、もしかしたら子どもから学ぶこともあるかもしれない。企業側から子どもたちに興味を持ってもらえることも期待しています。」

 堀川先生は、週に一度起業家が集まるサロンに出向き、交流をしているという。そこで様々な人との繋がりをもつとともに、ここで得た情報を教材や授業の題材につながる素材としている。企業と連携した探究活動を行えている裏にはこうした交流による人脈も関わっているのだろう。

書道家としての一面

 教師であり書道家でもある堀川先生。書道家を志したきっかけについて堀川先生に伺った。

「まず、5,6歳のころに『父親のような汚い字にはなりたくない!』という思いで字を習い始めたのが、自分と書道の初めでした。そこから小学校、中学校と教室に通い続けて、高校一年生の時に書道の先生に出会ったことが一番のきっかけだと思います。その先生から『人の生き方はそれぞれあるが、書道という文化に対して次の世代につないでいくというのは悪いことではない』と言われたことが大きかったです。今でもその先生とは付き合いがあって、二か月に一回は会って話をしています。

その先生と出会っていなかったら、自分は書道家ではなかっただろうな。人との出会いの中で今の自分があるのだと思います。」と堀川先生は語った。

書道家としては、作品を作ることの他に審査員や書道の雑誌で寄稿して中国語の翻訳の仕事をしていたそうだ。

『タダ飯、タダ乗り、芸のうち』という言葉についてのエピソードも伺った。

「書道というピラミッド型のヒエラルキーが整っている世界では、上の人が下の人の面倒を見ないといけないという文化もあり、自分も先輩や師匠といったいろんな人におごってもらったのです。おごってもらうことによって書道という芸を学ぶこともありました。書道という世界で生きていくためのすべというのを食事の場で教えてもらうこともありました。」と語った。

教師と書道家との両立

 堀川先生はもともと書道家を志す前に教師になりたかったそうだ。

「小学6年生ごろに小学校の先生になりたいと思い、中学校では理科の先生になりたいと思っていました。そして高校で書道の先生に出会い、今に至るという感じです。

建築家にあこがれていたこともあったので、ものを作り上げるということをしていきたかったのは変わらなかったですね。」と語った。

 教師として子どもに教えていくと同時に書道家としても活動していた堀川先生。どのように両立しているのか伺った。

「書道家というのは作品を作っていくので土日をつぶしたり夏休み中に書き溜めて置いたりしています。基本的には隙間の時間を見つけて作品を作っています。」

2024年の秋には作品展に出品するため、その準備も進めているそうだ。

新しいことに挑戦していく

 堀川先生はご自身が苦手とされていた英語やプログラミングに挑戦していることの他に、スキューバダイビングやツーリング、旅行といった様々な趣味がある。いろいろなことに挑戦していくことの理由について伺った。

「自分の知らない世界を知るということが楽しいからですかね。英語を学び始めたのは前に勤めていた学校をやめる際に、子どもたちから勧められたのがきっかけです。その時に『他に自分にできることは何だろう』と考えて、大学の時にコンピュータを触っていた経験を生かして、プログラミングについて勉強しようと決めました。その両方が学べるということでセブ島にて約1年間留学もしていました。

とにかく動いたら何かが変わるのではないかということで、何か一つのことを定めてやっていくよりも、視野を広げてやっていく方が自分にとってもメリットだと考えているということもあるからですね。」

今後の展望

 最後に堀川先生の大切にしたい信念と今後の取り組みへの展望について伺った。

 堀川先生は信念について、「しれっと『教師を趣味でやっている、楽しんでやっている』といえるようになりたい。学校の先生は大変な部分もあると思うが、それを超える面白さや楽しさがあるんじゃないかな。」と話していた。

 また、教師を続ける傍ら起業も考えているという。学校の授業についていけないような子どもたちをなくすために、学校の枠外から何かできることがないか探っている最中だ。それこそ子どもたちと一緒に起業することも視野に入れているようだ。

 生徒にキャリアデザインを教えつつ自分も何をしていきたいかを考え、堀川先生も自身のキャリアデザインを意識し新しいことにチャレンジしようとしている。子どもたちと一緒になって楽しみながら学びの自走を生むという理想を追い続けている。

編集後記

 今回堀川先生に取材して、何にもとらわれず新しいことにチャレンジしようとする姿勢や子どもたちとともに楽しもうとする姿が印象に残った。学校現場でもキャリア教育について課題となっている問題を耳にすることも多々ある。子どもたちが面白いと思うことを見つけ、学びの自走を始められることがキャリアデザインの第一歩である。様々なことに興味を持って取り組んできた堀川先生だからこそたどり着けたキャリア教育の形であると感じた取材となった。

 自分もこれから教員を目指す身として、様々なことに挑戦していくとともに、関わっていく子どもたちと一緒になって楽しんでいきたい。

(Unportalism Education 編集部 針原亘輝)

 今回の取材では、自分にできることは何かということに向き合い、新しいことに挑戦していく姿勢が今の堀川先生の教育のスタイルに繋がっているということを強く感じた。芸術系の科目では学んだことを言語化することが難しい場合もある。感じたことを主体的に発信できるような子どもを育てるためには、まず教師から変わっていく必要があるのだと思った。『子どもを変える』のではなく『子どもと変わる』を目指すことが、新たな教育に求められていることなのかもしれない。

自分と向き合うことは少し怖いことかもしれないが、自分にできることで人と関わっていけるように少しずつ変わっていけるようになりたい。

(Unportalism Education 編集部 松原加奈)

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