2024年度連載企画「未来の先生インタビュー」:濱元先生に聞く〜現役の小学校教諭が大学院に通うことを決めた理由とは〜
現役教員のリアルを深掘りする企画「未来の先生インタビュー」。第三弾は、東京都内の小学校に勤める濱元徹美先生だ。インタビューは、現役の大学生ライターである木村侑愛が担当した。
2022年から2023年の2年間、筑波大学大学院でカウンセリング心理学の研究を行った濱元先生。小学校教諭として勤務しながら、なぜ大学院に通うことを決めたのか、その背景にある教育への思いはどのようなものか、オンラインインタビューで話を伺った。
【教員になったきっかけ】
まず、濱元先生に教員になったきっかけについて尋ねた。濱元先生は大学を卒業後、教員ではない仕事とミュージシャンの活動を両立されていた。教育とは異なる畑でキャリアを歩むも、仕事とミュージシャンの活動を両立することは難しかった。そこで、自分の失敗や挫折の経験を活かすことができる仕事を探し、その結果教員になったそうだ。
「子どもに失敗と向き合う方法や、挫折を乗り越える方法を教えることで、自分の経験を活かすことができると思い、教員になりました。」と濱元先生は語っていた。
【大学院での研究『カウンセリング心理学』】
濱元先生は2022年から筑波大学大学院に入り、『カウンセリング心理学』の研究をされていた。そこで、具体的に『カウンセリング心理学』とは何か、どのような内容を研究したかについて伺った。
「『カウンセリング心理学』とは、教員が子どもの話を一方的に聞く『傾聴的会話』の影響について調べ、子どものソーシャルスキルや学級の満足度、非援助志向性を向上させることで、子どもが教員を援助対象と認知し、子どもが教員を積極的に活用するための研究です。現場経験から、この研究分野にとても関心があったので、今回チャレンジしました。
また、教員が実際に学級で『傾聴的会話』を実施する他に、研究の結果を根拠に、全国の学校の管理職が教員の仕事の改革をすることで、様々な方法で『カウンセリング心理学』を活かすことができるんです。」
続いて、傾聴的会話とはどのようなものなのかについて伺った。
「傾聴的会話とは、クラスの全ての児童と一対一で5分間おしゃべりをすることです。担任の先生は、子どもの健康面、生活面、学習面、人間関係面、そして自由という側面で質問をします。ここでも主役は、児童です。担任は、子どもに質問を投げかけ聞き役に徹します。つまり傾聴をします。 この実践を考えたのは、ある時、自分はこの1か月間全く会話をしていない児童がいるのではないか?っと気付いたことと、これからの教師像というのは、子どもの声をいかに聞けるかが大事だと考えたからです。 よく、アンテナをはって児童の些細な変化に気付くようにと言われますが、これには限界があると思います。 でしたら、しっかり会話して、話をゆっくり聴いてあげて、その子にとって一番良い方法を考えてあげる方が、児童理解にも繋がると思います。 私自身も傾聴的会話をすることで児童の違う一面を知ることがたくさんありました。シンプルなことですがコミュニケーションをとることが大切だと思います。」
「今年度は、3年生で、傾聴的会話を行なっています。嬉しいことに子ども達は先生と一対一でおしゃべりをする傾聴的会話の時間が早く自分の順番が回ってこないかと楽しみにしています。子ども達が特別な時間に思ってくれて嬉しいです。 今年は、同じ学年の先生も一緒に傾聴的会話を行っていて、手応えを感じてくれて嬉しいです。職員室では傾聴的会話の内容をシェアしたりして互いのクラスの児童も理解できるのでとても良いと思います。 また、傾聴的会話に共感していただき、中学校の先生にも行なってもらってます。手応えもあるみたいです。 こんな感じで自分の実践が広まって欲しいなと思います。」
「このように現場で起きてることをしっかり研究して、実践知と学問知を両方同時にしたくて、働きながら研究するという、社会人大学院にいくことを決めました。」
このように話す濱元先生が実践する授業はとてもユニークだ。意識していることは「子どもの特徴を活用する授業実践」だ。
「まず、児童が授業の主役か。教員の話を一方的に聞くような状態になってないか。次に、児童の活動が多いかどうか。特に授業の内容に関する会話について、児童の会話を利用し、会話の中で学べないか、といったことを常に意識するようにしています。なので私の授業では、授業時間の半分以上生徒が喋っている状態になることもしばしばあります。英語の授業では、喋った方が英語を覚えるのだから、45分の授業時間の半分以上は英語をしゃべらせています。」
【学校と家庭の関係】
カウンセリングを行う場面は、教師と生徒との間だけでない。大学院での『カウンセリング心理学』の研究を根拠に、心理学的な視点で学校と家庭の関係を構築する濱元先生の実例について伺った。
「学校、児童、家庭の連携が非常に重要です。具体的には、児童の成長を教員が連絡帳に記入し、保護者が家庭で児童を褒める、というような連携です。これは学校にも児童にも保護者にもプラスに働きます。『第三者効果』というのですが、人は直接褒められるよりも間接的に褒められる方が印象に残ります。」
【今後の目標】
最後に濱元先生の今後の目標について伺った。
「教員を志望する大学生に授業し、教員を育成する人材になりたいですね。大学を卒業してすぐに自信を持って教壇に立てるようなカリキュラムや授業を学生に提供したいと思います。そのためにも、実際にある具体的な話を大学生にしたい。ただ、今の自分にはなかなかハードルの高い目標であることは感じています(笑)。でも、学会に論文を出したり、少しずつアクションしていきたいです。」
【編集後記】
今回の取材で、大学院で研究中の「カウンセリング心理学」を実際に学校で活用し、常に児童を一番に考える濱元先生の姿が印象に残った。教師と児童のコミュニケーションを重視する中で登場する「カウンセリング心理学」は、児童が教師を信頼し、積極的に活用するために、非常に効果的な手段だと感じた。児童生徒を一番に考える学校の実現のために、自分の理想の学校について考えさせられる取材となった。
濱元先生の様に、常に児童生徒を一番に考え、自分の理想の学校の実現のために、働くことと学ぶことを両立する教師になりたい。
(Unportalism Education 編集部 木村侑愛)