将来の夢は、スナックのママ…!藤村先生から学ぶ、生徒との向き合い方
今回お話を伺ったのは、東京学芸大学で助教をされている藤村祐子先生(以下、藤村先生)。滋賀県の公立高校で15年間の教員生活を送った後、滋賀県総合教育センターにて教員向けの研修や研究を推進する研修指導主事を担当。再度高校の現場に復帰して今年(2021年)から現職に就く。現場で生徒と向き合うと同時に、教育現場そのものの仕組み作りにも挑戦してこられた。この写真は、昨年3月の卒業式の写真で、生徒たちの高校卒業と同時に、自分自身の高校教員からの卒業だと撮影された一枚だと伺った。そんな藤村先生が考える「学び」や教師の姿とは。
きっかけは教育実習
教師になってからかれこれ20年以上、教育に携わっています。初任の時からずっと「教師は、いつかはやめてやる!」と思っていたので、これほど続けていたと考えると、とても不思議な気持ちです(笑)教師を志したのも実はひょんなことがきっかけ。当時、農学部で学んでいた私はそのまま地元の化粧品会社に就職しようとしていました。ちょうど就職難の時代でしたが、とある会社から内定を獲得。実は教師という仕事に興味を持ち始めたのは、その矢先に参加した教育実習だったのです。ずっと研究職を目指していたのですが、子供たちと触れ合って「人相手の仕事はなんて魅力的なのだろう!」ということに気が付いて。大学の先生や家族から大反対されましたが内定をお断りし、そのまま教員になる決意をして、大学院に進学して教師の道を目指しました。
生徒と向き合い続けた日々
教員になって最初の11年間はバスケ部の顧問に没頭していました。その頃は部活が私の人生の全てでした。家庭的に苦しい生徒も多かったので、年末ぎりぎりまで部活をやって、みんなで年越しそばを食べたり、1月3日から集まって初詣にいったりしました。とてもアットホームで、部員たちは家族のような存在でした。
しかし突然、母校・彦根東高校への転勤が決まったのです。チームとしても年々強くなり、あと一歩で近畿大会を目指せるという矢先のことでした。彦根東高校でも顧問を続けることを期待されましたが、不思議と「バスケはもうやめよう」と心がすっと切り替わって。その後は自分の授業作りに専念することにしたのです。しかし授業に向き合えば向き合うほど「このままの教育でいいのかな?」と悩む日々が続きました。滋賀県という小さいフィールドだけではなく、もっと広い社会でいろんな学びを吸収したい。その思いがきっかけで京都・大阪・東京など様々な地域に出かけるようになったタイミングで、現場を離れて滋賀県教育センターで研修指導主事を引き受けることになりました。そこでは、コーチングやファシリテーション、民間企業等が開催する様々なセミナーに参加するようになったのです。教育現場ではずっと知識重視の授業が行われてきたけれど、生徒は10を教えても10を覚えているわけではない。だから、すべて教えることを目標とするのではなく、さらに広い視野を持って考える力をつけるために「主体的な学び」に重点を置いた教育・授業を目指しました。
学びの「本質」を見つめる
4年間、滋賀県総合教育センターで務めた後は虎姫高校の教師として現場復帰したのですが、その頃も常に「いつかはやめて新しいことにチャレンジする!」と思っていました(笑)なので悔いの残らないよう、私が今まで学んできたコーチングやファシリテーションの知識・スキルを授業や学活の時間にふんだんに導入しました。
例えば学期の始まりに、生徒それぞれにその学期の学びの目標を考えてもらうためのワークショップを実施します。生徒たちが書いた成果物などを廊下に貼っておくのです。普通は授業や学校行事の目標を考えるのは先生の仕事ですよね。それをあえて生徒たちにやってもらうのです。そうすると面白いことに、学期末に目標の到達度を振り返ると、生徒たちはちゃんと成長しているんです。それを可視化させることが重要なのです。
大切なことは、「何のための学校か」「何のための授業か」と、そもそもの「本質」を考えること。今の教育にはその機会が少ないですよね。しかし、多様な生き方や考え方を知ることが生きていくうえで何よりも大切なことです。学生時代に「幸せ」を感じる経験ができた人、自分を信じてくれる人に出会えた人は、どんな不安や課題に直面したとしても、ちゃんと自分の道を生きていくことができる。だからまずは自分で考えることや自身の成長・学びに向き合うことを通して、自分自身を知ってほしいのです。
変化し続ける自分でありたい
現在は東京学芸大学の助教として日本各地の高校と連携しながら、探究的な学びを取り入れた授業、そして教師教育モデルの開発を行っています。
私の目標は「変化に向けてチャレンジし続ける」先生であることです。教師生活の中で様々な挑戦をして、たくさんの人たちと出会って、学んできましたが、大変だったどころか、むしろ生きることが楽になりました。自分を信じる。勇気を持つこと。そして何よりも、決して無理をしないこと。その大切さを実感しています。
私には今でも夢があります。それは、スナックのママになることです。教師とかけ離れているでしょう?(笑)でもだれでも気軽に集える場所として、スナックはぴったりだと思うのです。お店に私はいつでもいるから、何かあったときに教え子たちは卒業後も気軽に顔を出すことができるように。知っている先生方がお店にいらっしゃれば、生徒たちは今まで知らなかった先生の一面を見ることもできます。そこに行けば誰かがいる場所。誰でもいつでも帰ることができる場所、そして新たに繋がりを生むことができる場所を、いつか創りたいのです。
編集後記
今回は私にとって初めての対面取材。少し緊張していたけれど、親しみやすい関西弁交じりでお話しする藤村先生はユーモアと生徒に対する真っすぐな思いに溢れていて、私は時間も忘れて聞き入ってしまいました。スナックのママになりたいという、先生の夢。今の教師の姿から全くかけ離れているようだけれど、藤村先生がお店に立ち、若者からご年配の方までいろんな方が集う、街の灯の一つとなっているのが目に浮かびます。私もいつか、お店を訪れることができますように。
(Unportalism Education 編集部 井戸静星)