教育移住でわかった!子供の未来を変えた先生と道具とは?
2015年、子供たちの不登校をきっかけに、当時住んでいた広島県から佐賀県武雄市へ教育移住をしました。家族も親戚も友人も、誰もいない場所への移住は、不安の方が大きかったのですが、どうしても実現したい理由がありました。それは、子供たちの学びを実現したかったからです。移住して5年が経ち、子供たちの成長とともに、今まで知らなかった学校のこと、先生のこと、そして、必要な道具についてわかってきました。(執筆:高橋幸代)
■支えてくれた先生の共通点
不登校というマイナスイメージの強い出来事がスタートしたのは、2013年にはいったころです。息子は小学3年の終わりから体調不良の休みがスタート。仕事の転勤で学校を転校して半年が経った頃でした。
同時に娘も保育園に行きたがらなくなり、4月からは小学4年になった息子と小学1年になった娘、2人とも学校に全く行けない状態になりました。全校生徒1,000人以上いるマンモス学校ということもあり、学校の先生はとても忙しく、学校に行けない子への対応に手が回るほどの余裕は全くない。そんな状態は、誰が見てもわかるほどです。
しかし、親の私としては、初めての子供たちの不登校。引っ越す前までは元気に学校も保育園も楽しく行くことができていたのに、何が起きたのか全くわかりませんでした。そんな状態をやっと見つけてくださったのが、特別支援教育コーディネーターの先生です。
娘の担任の先生が対応を相談したことで、息子と娘のことに気づいてくださいました。この先生は、直接の担任ではありませんでした。しかし、子供たちが何に困っているのか。そして、学校として何ができるのか。真剣に考えてくださったのです。特別支援教育コーディネーターの先生に出会えたことは、今の息子と娘の成長に大きく影響をしている。そう思えるほど、親である私にも不登校だけではなく、発達の困り感や親が知識と情報を得ることの必要性を教えてくださいました。
2020年で不登校8年目になり、支えてくれる先生には共通点があることもわかってきました。
それは、
・子供の困り感が何かを観察できる。
・肯定的な言葉かけができる。
・子供たちに選択肢を提案できる。
大きな共通点はこの3つです。もちろん、他にもいろいろあるのですが、不登校の理由を子供や親にだけ求めるのではなく、誰かを責めたりもしない。
いかに、子供たちの将来のことを考え、今何ができるのかを、学校、親、そして、関係機関と一緒に考え行動に移していくかができる先生が多い傾向がわかってきました。
■学びに必要な三種の神器
理解ある先生との出会いや子供たちの成長を見てきて、学びに必要な三種の神器もわかってきました。
それは、「人」、「環境」、「道具」の3つです。
このどれかが欠けることなく揃った時、子供たちはゆっくりではありますが、自信を持つことができるようになり、自分から学びたい気持ちを取り戻せる。そして、自ら学ぶ意欲が増していきます。
具体的に、私の子供たちの場合でご紹介します。
「人」は、理解ある大人です。私の子供たちの場合は、学校の先生や専門家の先生、福祉関係者でした。佐賀県武雄市に教育移住してからは、息子の中学校の校長先生と担任の先生、そして、魔法のプロジェクトで支えてくださったソフトバンクの先生に助けられました。
※魔法のプロジェクトとは、学ぶ上での困りを持つ子どもの学習や社会参加の機会を増やすことを目指しています。
次に必要な「環境」についてです。子供が学びやすい環境が何かを探るためには親の力だけではできません。子供が動けない時はなおさらです。その気持ちを察して、そして、冷静に、その時に1番必要だった「待つこと」を、当時の学校の先生は支え続けてくださいました。学校の先生で「待つこと」を支えてくださる方はほとんどいません。なぜなら、学校の先生の多くは学校に来ることを求めることが多いからです。しかし、私たち親子を本当に支えてくださった先生は、待つことを誰よりもできる先生でした。
最後に「道具」です。私たち親子が佐賀県武雄市に移住した最大の理由が「道具」。つまりICTです。武雄市は5年以上前から小中学校に1人一台タブレットを実施。そのこともあり、移住を決意しました。
結果的には、不登校の子にとって必要な使い方はまだできていませんでしたが、交渉しやすい環境はありました。実際に、魔法のプロジェクトの導入ができたこと、そして、プロジェクト終了後もICT活用が継続できたのも武雄だったからこそです。
■ICTの本当の力
三種の神器がそろったら、すぐに子供たちが変化したのかというと、そうではありません。しかし、長い時間ゆっくりと変化していきました。現在、高校に進学している息子は、中学3年の夏休みがあけて、急に高校へ進学を決意しました。
なぜ、高校へ進学を決意したのか?
それは、ICTをうまく活用できた先生がいたからです。ICTと聞くと学習のための活用が真っ先に思いつくかもしれません。
しかし、本当のICTの力は、人と人を繋ぐ力です。
息子が中学校1年のとき、魔法のプロジェクトが実施されました。その時は、最初の3ヶ月は学校に行けたものの、その後はパッタリと行けなくなり、再び不登校になったのです。そんな中、先生が毎週金曜に、何気ない日常の出来事を写真やメッセージで伝えてくださいました。返事はできなかったものの、次第に、恐る恐るスタンプを送ったり、返事ができるようになったりしました。
この小さな積み重ねから、偶然、担任の先生の誕生日を知り、当日にはお祝いのメッセージを送るほどになったのです。息子にあったペースでの関わりはその後も続き、中学2年の夏休みあけ、「ぼくは学校に行ってみる」と、自分から先生に会いにいくようになりました。
先生と一緒に畑仕事や新聞の記事を話題に話をしたり、絵を描いたり。5教科の学習はほとんどできていません。
しかし、この積み重ねがあったからこそ、先生もいい人がいると実感でき、自分の未来を考えられるようになりました。
■未来を切り開くために
コロナにより、学校に行くことができないという状態を、たくさんの子供たちも経験しました。この出来事により、たくさんの人の普通がひっくり返ってしまったと思います。
多くの子供たちが経験したことは、不登校の子供たちの日常です。しかし、ICTを人と繋がる道具だと捉えて使っていたら、学校に行けないから不安ということはなくなります。それは、私の息子と娘が8年という長い時間で教えてくれたことです。教育移住というあまり聞きなれない移住は、私たち親子にとって、「どうやったら自分が今いる場所でも未来を切り開くことができるのか?」を学ぶ機会になりました。
子供たちにとって必要な先生が増えるように、そして、学校の先生とだからこそ学べる人との関わりが、ICTを活用することでさらに広がって欲しいと願っています。
◆執筆:高橋ゆきよ 20年勤務した公務員を退職し、フリーランスとして活動中。あなたが我慢しすぎたり、孤独に感じたり、と追い込まれることがないように、私は、オンライン上であなたの想いと言葉を共有できる場所を作っています。 あなたの想いと言葉を共有できる場所/ハートワードシェア