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西田先生に聞く~自立した学び手を育てる授業とは~

東京都の私立小学校で総合的な学習の時間に力を入れている西田雅史先生に、自立した学び手を育てる教育についてお話を伺った。ドラマ「金八先生」の人を変えられるような熱い働き方にあこがれて教師を目指した西田先生。小学校教員となって14年、今なお進化を続ける授業実践の中から特に「総合的な学習の時間」に着目しながら、先生の教育に対する思いを深掘りしていく。

授業実践で大切にしていること

 授業実践について迫っていく中で西田先生が特に強調していたのが、「授業を通して自立した学び手を育てる」ことだ。教師は学習のための伴走者であり、子どもたち自身が学習のコントローラーを握って学びに自走できるような関わりを大切にしていると言う。このような教師と子どもの関わりについて自動車学校の教習車を例に挙げながらこう語った。

「どの授業においても学習のコントローラーを子どもが握ることができるような授業をめざしています。しかし、学習経験の少ない小学校段階なのですべてをゆだねると暴走してしまいます。そのため子どもの学習の伴走として教習車のような関わり方を意識しています。ハンドルを握っているのは子どもですが、問題が発生した場合には教習のように助手席にいる自分がブレーキを踏み、目的地への軌道修正を行います。

また様々なレベルの子どもがいるため、一人ひとりへの伴走をとても意識しています。車で例えると、はじめは教習車が良い子もいれば、はじめから一般車で良い子がいて、2台分の車を用意する必要があり、さらに一般車においても助手席に乗る必要があるのか、後部座席で良いのか、同乗せずに目的地で待っていればいいのかといった全く異なる対応が求められます。学習に置き換えても同じで、自分がつきっきりで教えた方が良いか、友達どうして教え合うのか、一人で進めるのかを個人が選ぶことのできるような形をとっています。

 こうした授業で難しくなってくるのが、ブレーキをかけるところの見極めです。こればかりは日々実践の中で常に模索中ですが、学習の目的地を共有することは大切にしています。学習として共有した目的地に向けて子どもは車を走らせますが、道から外れて目的地にたどり着けない子も出てきます。しかしその子は目の前に一生懸命で気づいていないため、『もうだめだ』と自分が判断した時にブレーキをかけます。」

総合的な学習の時間の実践

 自立した学びに向けた実践をどの授業においても意識している西田先生が、特に力を入れているのが総合的な学習の時間である。中でも昨年の実践が印象に残ったと言う。実際に行った内容を伺った。

 実践は小学校4年生の授業で、「環境」がテーマであった。しかし環境というテーマでは範囲が広すぎるため西田先生は「地域のごみ問題」に絞って活動を始めた。地域のごみ問題について児童に尋ねると次々に街のごみの情報が出て、街をきれいにしていくためにはどうしたら良いかを考えた。そこで児童の意思も反映させてごみ拾いを行い、その後街をきれいにしていくためにポスターや動画などの制作を行った。ここで子どもたちは満足していたが、西田先生は「いろいろ制作してくれたけど、街ってきれいになったのだろうか」と問いかけをした。これが核心的な問いとなり、児童は制作物が解決につながっていないことに気づき、そこからさらに探究活動が動き始めた。近隣の保育所や児童館など学校外で協力できそうな施設を自分たちで見つけ、自分たちで連絡を取り、出来上がった成果物を持ってプレゼンをしに行った。最終的には学校外の様々な施設を巻き込んだ探究活動となった。

 この授業を振り返って西田先生は、

「はじめはここまで学校の外に活動を広げる想定でなかったため、子どもたちの行動力に非常に驚きました。そのため途中で設計を大きく変更して、時間数も増やしました。子どもの意欲に寄り添いすぎたことで情に流されてしまい、時間を延ばしすぎたことは反省点です。しかし、最初の問題意識の持ち方と持ったタイミングがとてもよかったこと、子どもたちの『より良いアウトプット先は何だろう』という思考から実際の行動にもっていけたことは大きな成果であり、自分の自信にもつながりました。

また、自分が授業に行くのが遅れたことがあったのですが、教室に着いた時には子どもが自主的に活動を始めており、自分が教室に入ったことに誰も気づいていないということもありました。ここでの子どもたちの姿に自立した学び手になっているという実感を得ることができました。」と語った。

総合的な学習の時間を行う上で大切にしていること

 西田先生は総合の授業を行う上で、授業を受ける側はもちろん授業をする側も面白く楽しいものであること、授業で行うことが明確であることを大切にしているという。授業で行うことが明確であれば、教師がいなくても自分たちで活動を進めていくことにつながるため、授業としてはそこをめざしていく必要がある。また、授業をするにあたっての子どもへの願いとして、「外とのつながりを大切にする」ことを強調していた。

このことについて西田先生は、

「教師でも子どもでも外とのつながりが大切であると思っています。外とのつながりが無ければ自分の学びになるものは学校内に限られてしまいます。外には素敵なことをしている大人がたくさんいて、そうした人とたくさんつながり、いろいろなことを吸収し、いろいろな人に考えを発表してほしいと思っています。こうした外とのつながりから大小さまざまな価値観の変化をたくさん見てきました。過去にはこうした子どもの価値観の変化が保護者にも伝わっていたことがあり、驚いたこともありました。」と語った。

転機

 総合の授業において「外とのつながりを大切にする」ことを大切にしている西田先生だが、実はもともと今とは180度真逆の教師であったそう。

「金八先生があこがれの存在であったため、教師になった当初は特に『自分が何とかする、子どもたちの学びはすべて自分から』という考えが強く、とにかく学校の外に子どもたちを連れて行くことが嫌で、社会科見学に行くことすら嫌でした。また、そんな熱い働き方をしていた自分に対して、子どもたちから前向きなフィードバックがあったり保護者から感謝されたりしていて、そうした状態に酔っていたんだと思います。」と西田先生は笑いながら語った。

 そんな西田先生に3年前に転機が訪れた。学校外で総合的な学習の時間でのキャリア教育の実践について話を聞く機会があり、そこで「外とつながる授業」に出会った。そこで授業を通して外とつながることに魅了され、現在実践している総合的な学習の時間の授業に取り入れるようになったという。

「外とつながることでこんな面白い世界があるんだと驚きました。知らないことを知るのはとても楽しく、授業をつくる側としても楽しいです。外とつながることによる子どもの変化にも魅了されるようにもなりました。それとともに、自分のこれまでの実践について『これまで行ってきた総合の授業は総合ではない、偽りの総合だ』と気づいたことで、全てを捨てて新しい実践をどんどん取り入れました。」と、西田先生は当時を振り返った。

 また「外とつながる授業」に出会い、すぐに実践へと移すことができた経緯としても、こう振り返っている。

「『すべての実践の背景には今までやってきた実践を捨てる』という一つのプロセスがあります。自分自身も過去に何度かそういう経験があったため、『外とつながる』という新しい実践を始めた時も躊躇は無く、すぐに実践に移すことができました。自分の価値観を一旦置いて、捨てる時には思い切って捨てることで、その後に取り入れるものも大きくなると考えています。自分はそこに一種の心地よさを感じている部分があるため、目の前のやりたいことへ乗っかっていくことを大事にしています。」

 こうした目の前のやりたいことを大切にする姿勢があったからこそ、3年前の出来事が西田先生自身の転機となり得たと言える。子どもたちの自立した学びの実現や魅力ある授業づくりには、子どもの学習に先立った教師の授業に対する姿勢がカギになってくることが話の内容から伝わってきた。

今後への展望

 最後に西田先生のこれからの目標について伺った。今年に入って公立小学校勤務から離れて私立小学校へ転職し、大きな転換点を迎えている中での今後の展望をこう語った。

「一言で言えば、教師として『尖り続けたい』です。これからどのようなキャリアを歩むかはわかりませんが、現状維持でなく自分を常に更新させ続けることを大切にしていきたいです。

 また、教師教育や教職を目指す大学生との関わりにも興味を持っています。大学生や若手教員とワークショップや校内研究を行ったり、オンラインコミュニティを主催したりなど、何か面白いことがしたいということも考えています。同じ学校内などの近い距離間の先生と楽しく仕事をすることも重要ですが、日本の教育を広く良くしていきたいと考えているため、いろいろな年代でいろいろな場所で働いている先生とつながっていきたいと思っています。

 こうした活動をしていくためにも、まずは自分を更新し続けることが大切です。今いる小学校で実践を磨いていき、その延長としてやりたいことに手を出していきたいですね。」

 新天地で実践を重ね、尖り続けていく西田先生に今後も注目である。

・編集後記

 インタビューを通して、西田先生の明るい中にも感じる熱い人柄と、様々なことを楽しもうとする姿勢が非常に印象的であった。

 普通であれば自分が一度積み上げてきたものというのは簡単に崩すことは出来ないが、西田先生の魅力的な実践の背景には、自分の良いと思う新しいことを積極的に取り入れ常に自分を更新していく姿勢が関係していることがわかった。自分もこれから実践者になっていく身として、こうした姿勢を持ち続けることを大切にしていきたい。

 普段なかなか総合的な学習の時間の具体的な実践について話を聞くことのできる機会がないため、今回インタビューはとても貴重な時間であった。

(編集:針原亘輝)

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